2021.10.26
実験結果を地盤工学会「GeoKanto2021」にて発表いたしました。
令和2年10月~令和3年3月の期間、史跡に指定されている松本城の内堀に堆積する泥を除去する浚渫(しゅんせつ)実証実験である「史跡松本城浚渫工法調査業務委託」に参画しました。
松本城では、長年の堆積物により近年、水深が非常に浅くなり、堀が埋まる問題が顕在化しています。そのため、時期によって水位が下がり堆積物が露出し、悪臭を発生することが指摘され、堆積物の除去が大きな課題となっています。
松本市では松本城の内堀、外堀および総堀の全面的なしゅんせつの実施にあたり、最も適した方法を検討するため、異なる3工法で実証実験を実施しました。
あおみ建設ではこの実証実験に参画し、当社技術である「水底土砂ポンプ浚渫工法」を今回の実証現場条件に合わせてカスタマイズ(鋭敏な浮泥が浚渫機外へ漏出しない泥水攪拌、送泥機構)し、観光地である松本城の環境に配慮し、実証の課題である「景観の確保」「臭気発生対策」「史跡に損傷を与えない施工」に配慮し施工を実施し、周辺に濁りが出ない施工が出来ることを実証しました。
景観に配慮した「水底土砂ポンプ浚渫工法」でしゅんせつを実施
本実証では松本城に最も適した浚渫方法を選択するためにプロポーザル方式で採択された3工法から臭いや景観、泥の処理方法などを検証し見極めることとなっていました。
「水底土砂ポンプ浚渫工法」は5.7m×5.7mのコンパクトな船体に浚渫機材が配置されており、小型車両での搬入が可能です。また、本工法の泥水処理構成は、無機系凝集剤「オイルフロック」とそれを使用する濁水処理施設・脱水処理施設で構成されており、「オイルフロック」の凝集、沈降速度の速さから濁水処理機がコンパクトになるとともに、浚渫船にて粗粒分を分級する為、振動フルイ設備が不要であり、よりコンパクトな構成が可能になります。そのため、本実証実験では唯一処理設備を制約の多い史跡内で設置する事が可能で、実証の大きなテーマである観光客や地元住民への影響を抑制し苦情やトラブル発生なく実験を終えることが出来ました。
史跡に損傷を与えない施工を実施
本工法は対象箇所(浚渫・除去箇所)のみを鋼製枠で覆い、ジェット水による枠内での撹拌と粗粒分を枠内で分級し、細粒分(浮泥・シルト分以下)のみ除去をおこなうことで浚渫中、濁水処理設備に粗粒分や史跡物、水中埋設物が泥水と共に送泥されることは発生しなかったことから、史跡および水中埋設物に損傷を与えない工法であることを実証しました。
悪臭発生を防ぐため浚渫中の汚濁や周辺浮泥を乱さない施工を実施
松本城の堀は鋭敏な浮泥が堆積しており、そういった条件にも対応できる様に浚渫機枠内から泥水が漏出しない浚渫機構をさらに強化する事により浚渫中に汚濁が出ない事を確認し、浚渫船の移動中も周辺浮泥をかき乱すことなく施工可能なことを実証しました。
凝集・沈殿処理後の水を戻すことにより堀の水質改善を実施
本工法で使用した無機系凝集剤「オイルフロック」は、より自然生息体系にやさしい薬剤を目指したものであり、pH変化を起こさない薬剤であるため中性域を確保し、水質改善が可能です。また、浮遊物質(SS)、COD、ノルマルヘキサンなどの水質改善も可能であることから、処理後は水とスラッジに確実に分離でき、処理後の水は環境基準をクリアした性状で堀内に返すことができました。
ICT施工により浚渫船上の無人化・遠隔操船、GNSSによる位置管理により正確な出来形形状を実現
本工法はGNSS(Global Navigation Satellite System / 全球測位衛星システム)による位置誘導により、正確な施工位置管理、施工進捗のリアルタイムなデータ管理が可能で、鋼製枠(油圧リフター)による水深管理を行うことにより高精度な深度管理が可能になります。本件のような史跡保護(堀底保護)の場合、特に深度方向への施工管理が確実に実施できる工法です。また、浚渫船の操船及び施工管理は陸上の管理棟から遠隔でコントロールできる船位誘導システムと、浚渫装置の自動制御を実現する施工管理装置により構成されています。
今回、松本城の底泥土質に対して、事前に設定した範囲に誤差なく正方形の出来形形状を確保できること、周辺浮泥の乱れ等影響を与える事無く約1ⅿの浚渫層厚を一気に浚渫出来る事が実証できました。